sonible【smart:chain】は個人プロデューサーの救世主になるか? AI チャンネルストリップを本音レビュー

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制作に必ずついてくる作業、それはミキシング

EQ を挿して、コンプを設定して、必要ならゲートやディエッサーを追加して、音量を整えて・・・トラック数が増えるほど地味に時間を持っていかれる作業です。

自分でミックスまでやっている人も多いと思いますし、外注するにしてもラフミックスくらいにはしたいところですよね。

でも制作は好きだけどミックスはそんなに好きじゃない、または苦手、という人も少なくないのではないでしょうか?

sonible の smart:chain は、こうした処理をひとつのプラグインにまとめたインテリジェント・チャンネルストリップです。(その界隈ですと iZotope の Neutron が一番有名でしょうか)

EQ、コンプレッサー、ゲート、De-Ess / De-Harsh、Input Rider、サチュレーター、クリッパー、さらにセッション全体の Auto Leveling も搭載。

ミックスしたいトラック全てにインサートして学習させると、その分析結果をチェーン全体で共有それぞれのトラックに適切な処理をする設計になっています。

もちろん、学習後のパラメーターは手動で編集できますので、smart:chain をミックスのスタート地点とし、それを基に1画面で全てのトラックをコントロールできるチャンネルストリップとして仕上げることも可能ですよ。

まあ、なんか Neutron を引き合いに出してしまいましたが、実際はあくまでも自動機能と1画面管理機能が付いたチャンネルストリップ・プラグインって感じですので、「AIが全自動でミックスを仕上げてくれるよ」っていうのとは違います。

基本的な使い方

使い方はかなりシンプルです。

  1. トラックに smart:chain を挿入する。
  2. 音源に合ったプロファイルを選ぶ。
  3. 代表的なフレーズを再生しながら Learn を実行する。
  4. 生成された設定を確認する。
  5. 必要に応じて手動で調整する。

プロファイルは、ボーカルやドラムなど、音源に合ったものを選択します。

適切なプロファイルが見つからない場合は Universal を選びましょう。

ここで大切なのは、そのトラックのキャラクターがよく出ているフレーズを選ぶ必要があることです。(曲の途中で大幅に役割が変わるようなトラックは、思い切って2つのトラックに分けてしまうのも手です)

学習が終わると、EQ やコンプレッサーを中心に各モジュールの初期設定が作られますので、その後必要に応じて各モジュールで調整しましょう。

使用上の注意点

smart:chainより前段にあるエフェクトは全てsmart:chainの学習に影響を与えますので、一緒に学習してほしいエフェクトは前段、学習して欲しくないエフェクトは後段に配置しましょう。

もちろん、クリップ自身のレベルやピッチなども重要です。

もし、学習後にそれらをいじった場合はもう一度学習しなおしましょう。

Auto Leveling でセッション全体を整える

smart:chain の大きな特徴が、複数トラックを対象にした Auto Leveling です。

2 インスタンス以上が学習済みになると Auto Leveling が有効になりますが、基本的にはトラック全体を学習してバランスをとってもらう使い方が主になると思います。

ジャンルを選択できるのもいいですね。

ジャンルごとの曲調の違いというのはミックスのバランスによるところも少なくないため、そこを考慮してくれるのは大きいです。

ただし、ジャンルの選択肢がそこまで多くないところからも分かるように、さすがに smart:chain の自動機能だけで完結させるわけではありません。

そのまま smart:chain 内で後述するグループや個別のトラック単位で調整できるようになっていますので、あくまでもマニュアルで調整を入れていくような使い方が想定されていると思います。

また、DAWのミキサーフェーダーは smart:chain より後段にあたるため、smart:chain でやることが大体終わったらそちらで調整するのもオススメです。

Front / Middle / Back で奥行きを作る

smart:chain ではグループというのを自由に作れ、そのグループ内にまとめたトラックを Front、Middle、Back の3つのレイヤーに配置できます。

要は、音を前に出す、後ろに引っ込ませるみたいな処理を自動でやってくれるわけで、EQやコンプレッサー、Auto Leveling が有効な場合はレベルも自動で調整されます。

とはいえ、やはりこちらも下準備として捉えた方がいいでしょう。

あくまでも最終的には耳で聴いたり、リファレンスを比べたりしながらマニュアルで調整することを前提としているように感じます。

ちなみに、グループは自由に増やしたり減らしたりできますし、どのトラックをどのグループにまとめるかはドラッグ&ドロップで簡単に移動できます。

例えばドラム関係でしたら、ざっくりと「Drums」グループにまとめてしまってもいいですし、レイヤーしたりしている場合は「Kick」「Snare」「Top」とかに分けるのもアリです。

こうするとスネアのレイヤー内で前後を調整できる上に、スネア単位でボリュームの上げ下げを調整することもできます。

搭載モジュール

Gate

Gate はチェーンの先頭に配置され、ノイズ、ルーム音、他トラックからの漏れなどを抑えます。

対応プロファイルでは、単純な音量だけでなく、選択した音源が鳴っているかどうかを検出する Smart モードが使えます。対応していないプロファイルでは、通常の Level モードを使います。

EQ

EQ には、学習結果を反映する smart:filter と、通常のフィルターがあります。

smart:filter は音源のスペクトル上で処理すべき場所を判断し、その影響度や範囲を調整できます。(スマートフィルターは分割もできますので、帯域を分けてスマートフィルターの適用度を調整することも可能です)

通常の EQ フィルターは、狭い共鳴を削る、ローカットを入れる、特定の帯域を意図的に持ち上げるといった、手動で正確に行いたい処理に向いています。

AI の提案をそのまま使うだけでなく、「この帯域は自分で処理したい」というときに通常の EQ が用意されているのは安心感がありますね。

Input Rider

Input Rider は、録音中の音量差が大きい素材で特に便利です。

コンプレッサーの前に配置されるため、コンプが急に深くかかったり、逆にほとんど動かなかったりする状況を減らせます。

ボーカルのテイクや、演奏の強弱が大きいベースなどで試す価値があります。

Compressor

コンプレッサーは、smart:chain の中心的なモジュールです。

学習によって Ratio、Threshold、Attack、Release の初期値が作られ、Dynamic / Dense で全体のキャラクターを調整できます。

最初は Dynamic / Dense で大まかな方向を決め、その後にマニュアルで詰める、という順番が使いやすいでしょう。

Saturator

Saturator は、音に倍音と密度を加えます。

Clean は比較的控えめ、Aggressive は歪みやエッジが目立ちやすく、Smooth は丸く温かい方向です。

音源を少し前に出したい場合や、存在感を補いたい場合には使いやすいでしょう。

Clipper

Clipper はチェーンの最後段のモジュールです。

あくまでも予期しないピークを抑制するための安全策として、リミッター的なイメージの使い方を想定しているみたいです。

レイテンシーと CPU 負荷

レイテンシー

smart:chain には Normal と Low Latency のモードがあります。

Normal ではフルチェーンが使えますが、Low Latency では Gate、De-Ess / De-Harsh、Input Rider、オーバーサンプリングなど、一部の機能が無効になります。

通常のミキシング・プロセスで使うのでしたらNormalでいいでしょう。

CPU負荷

CPUへの負荷は、やはり個別に色々なプラグインを挿すよりは軽く抑えることができますね。

全トラックをsmart:chainで処理したものがこれくらいなのに対して、

smart:chainと同じようなEQとコンプによる処理を個別のプラグインでしたものがこちら。

ただし、これはFabFilter製品やDAWのネイティブ・エフェクトなどのように軽いプラグインを使用すれば結果や逆になるかもしれません。

良かった点

初期設定が速い

EQ、コンプ、ゲート、サチュレーションなどを個別に立ち上げるより、単純に立ち上げるプラグインの数が少ないわけですので楽です。

これはチャンネルストリップ・プラグインに共通した利点ですね。

テンプレートに組み込んでおいて、とりあえず smart さんに処理してもらって、合わなかった部分は個別に処理するというワークフローも考えられます。

エフェクトごとにオンオフできるのも嬉しいポイント。

処理の全体像が見やすい

複数のモジュールが一つの画面にまとまっているため、あっちのプラグインを開いてこっちのプラグインを閉じてという手間が大幅に軽減されます。

とくにシングルディスプレイで作業している方は、かなりミキシングがやりやすく感じるのではないでしょうか。

また、処理の流れや関係性も把握しやすくなると思います。

複数トラックの整理に強い

グループ機能も非常に便利ですね。

通常はトラックフォルダやグループ、バストラックなどを使ってするような機能もプラグイン内である程度までは済ませられるイメージです。

もちろん、smart:chain だけでは足りないと感じれば、いつものバストラックでの処理なんかを追加でやっても smart:chain よりも後段での処理になりますので問題ありません。

手動編集の余地が残っている

というか完全手動でもいけちゃいます

一度学習させるのはしないといけませんが、AIが設定したものを「全無視」することも可能となっております。

おそらくEQが気になるところかと思いますが、スマートフィルターの度合いを0にして一から好きなところに好きなフィルターを入れていくこともできますし、スマートフィルターをうっすら部分的に使いつつ手動でフィルター入れていくこともできます。

手動か自動かという二択ではなく、シームレスに使い分けられるのはポイント高いです。

気になった点

画面が小さい

マニュアルでも動かせるのは良いのですが、さすがにEQとかは作業スペースが狭いため使いやすいとは言えません。

まあ、これはチャンネルストリップあるあるだと思います。

これで普通のEQ並の機能と使いやすさだったら smart:EQ はどうなっちゃうんだ?って話ですからね。

間に別のプラグインを入れたい時

はあきらめましょう。

柔軟性という点も、チャンネルストリップあるあるですね。

「コンプしか使わない」みたいな、チャンネルストリップである意義を無視するような思考の柔軟性も時には大事なのかもしれません。

ミキシングしながら制作する場合は?

制作時もある程度音のスペースを意識しながら進める必要があるため、「ノーミキシングで突き進んであとはミキシングでなんとかする!」という人以外はある程度 smart:chain との付き合い方を考える必要があります。

そのためのローレイテンシーモードなんだと思いますので、ポイントポイントで学習を入れていく感じの使い方も考えられるかもしれません。

ちなみに、手動で設定したEQフィルターは再学習しても残りますが、コンプはリセットされてしまいます。

サイドチェイン処理には非対応

期待していた人もいるかもしれませんが、サイドチェインを使った動的なマスキング対策機能みたいなのはありません。

まあ、基本はチャンネルストリップ・プラグインですので当たり前っちゃ当たり前ですね。

ですので、そういった処理は smart:chain の前段か後段でしましょう。

ダッキングだけでは足りない部分を smat:chain 処理をしてほしいなら前段、とりあえず smat:chain で処理して足りない部分を動的なダッキングで補いたい場合は後段、といった考え方でいいかと思います。

音源に合わせて使い分けるといいでしょう。

まとめ

というわけで、「sonible が何かヤバい製品を出してきた」「え、他の smart シリーズとかぶってる部分ない?」と思っていましたが、蓋を開けてみれば普通に smart シリーズのチャンネルストリップ版と考えて良さそうです。

smart シリーズは「AIを売りにしているけどAI抜きでも普通に使える、てかむしろかなり優秀」なのが良いところですが、smart:chain もちゃんとその流れを汲んだ製品というわけです。

負荷も PSP の InfiniStrip より気持ち高めかな、くらいですので全然身構えるほどではありません。

次のような人におすすめの製品かなと思います。

  • ミックスの初期設定に時間がかかる人。
  • EQ やコンプの方向性を素早く決めたい人。
  • 複数トラックのラフバランスを短時間で作りたい人。
  • プラグインを何本も立ち上げず、処理を一画面で管理したい人。
  • なんかチャンネルストリップが欲しい人。
  • sonibleのファン。

初心者は勉強がてら使えますし、中級者は時短ツールとして、上級者はアシスタント付きのチャンネルストリップ・プラグインとして運用できるでしょう。

他の smart とシリーズ(コンプ、EQ、ゲート)との棲み分けもできています(普通にEQ、コンプ単体とチャンネルストリップの関係性と同じ感覚でOK)ので、すでに smart シリーズを何かお持ちの方でもゲットする価値はあると思います。(すでにしっかりとしたワークフローを組んでうまく回っているのでしたら無理に組み込む必要はありません)

個人的には、1画面で全てのトラックにアクセスできるのがめちゃくちゃ便利だなと感じました。

マニュアル操作にバッチリ対応している点も気に入りました。

AIに任せすぎない究極の時短ツールをお探しの方は、ぜひ一度お試しください!

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